vol.17女子バレーボール
[後編]

小山晴那さん(18)相洋高校 女子バレーボール部所属清恵さん

「晴那が入部してくれたとき、宝物をいただいたと感じました」と振り返るのはアトランタ五輪の出場経験を持つ、相洋高校女子バレーボール部の大川千穂監督(旧姓:鳥居)。晴那さんは素晴らしい才能を持ちながらも、それを生かす欲があまりないおっとりとした性格。「自分の殻を破って欲しい」という願いを込めてキャプテンに任命したと言います。シャイで取材は苦手そうでしたが、受けてくれたのは「プロになるのだから」という自覚あってのことでしょう。マイペースに頑張る才能が新たなフィールドでも開花しようとしています。

しんどい時も仲間がいたから楽しかった

バレーボールを始めたのは小学校1年生の時。4年生までは遊びの延長って感じで楽しいことばかりでしたが、高学年になると毎週末のように遠征があり、練習もハードに。疲れて行きたくないこともあったし、監督に叱られることも多くてしんどかったけれど、仲のいい友達も一緒だったから楽しさの方が勝っていました。

家でも、バレーボールに向き合う姿勢については厳しく言われてきました。母は元実業団のバレーボール選手、父もソフトボールをずっと続けているアスリート家系なんです。小さい頃は特に厳しくて、「笑顔が足りないよ! 自分の顔を見てみなさい」って鏡の前で怒られたこともあったなぁ……。今でも、試合の動画を見ながらダメ出しされたりする時は、ちょっと煙たい……です(笑)。

高校はオリンピアンである大川監督の元で学びたいなと思って相洋高校が気になっていたんですが、別の学校から推薦をいただいていたので迷っていたんです。でも、相洋の体験入部に行った時に先輩たちがとても優しくて、部の雰囲気がフレンドリーだったのが決め手になって、一般受験で入学しました。

欲の少ない性格は、裏を返せばムラがなく着実であるということ。実際、プレーが崩れにくいのは晴那さんの持ち味である。周囲に圧を与えないからチーム内に敵を作らず誰からも好かれる性格だ。

キャプテンに任命された時はちょっと複雑で……

相洋高校では、練習始まりの坂道ランニングやレシーブ特訓などキツイ練習もあったけれど、にぎやかで個性豊かなメンバーばかりで、楽しくバレーボールに打ち込むことができました。練習終わりにみんなとファミレスに行ったり、先輩の家に泊まりに行ったりすると、ずーっと部活の話で盛り上がれるんです。

2年生でキャプテンに指名された時は「私でいいの!?」と驚きました。真面目なタイプでもリーダータイプでもないし、ふざけてばかりだったのに……。選ばれたからには頑張ろうと思いましたが、簡単な役割ではなかったです。

一番苦労したのは、何か問題があって指導しなきゃいけないような時。もともと感情を出すのが苦手なタイプなので、大きな声でみんなをまとめることが難しかったのです。なので、毎日のミーティング時に改善すべき点などを冷静に伝えるようにしました。感情的に怒られるのもあまり好きではないので、統率力のあるキャプテンとは違うかもしれないけれど、自分なりの理想に近づけるように努力しました。

コーチを経て、相洋高校女子バレーボール部の監督に就任して3年目となる大川監督。抜群の指導力とオリンピアンの人脈力で、練習時間が少ないながらも躍進するチームの強化に貢献している。

バレーボールが好きだからきっとなんとかなるだろう

3年間で印象に残っている試合は、1年の時の春高バレーの神奈川県予選で姉がいる伊勢原高校と対戦した試合。お姉ちゃんもセッターなんですよ。結果負けたんですが、家族全員が盛り上がりました。あとは最後の関東大会での文京学院大学女子高校戦。慣れない大舞台に適応できなかったし、春高常連である文京との差を感じる試合でもありました。でもレベルが高い選手が続々入部してきたので後輩たちにリベンジしてほしいです。

身体作りで意識していたことは、あんまりないんです。お母さんは「晴那は少食だから」って言うんですが、うちの家族が食べすぎなんですよ(笑)。入部当時は確かに細かったけれど、3年間のトレーニングで筋肉もだいぶついてきました。

春から実家を出るのは少し寂しいし、新しい環境に慣れるまで不安はあるけれど、きっとなんとかなるでしょう。先輩たちとのレベルの差はまだまだ大きいから、まず試合に出られるように、ゆくゆくはチームのみんなが頼れるセッターになり、V1昇格に貢献できるように頑張っていきたいです。

高校から実業団入りしたお母さんと同じ道を進む晴那さん。まだ面と向かって素直になれないお年頃だけれど、独立したら一気に大人になってしまうかも。そんな子どもの成長は楽しみだけどちょっと寂しくもある。

※2023年2月 公開