vol.20 剣道

石田聖虎さん(18)聖光学院高校 剣道部智栄子さん朋之さん

From Parents to Child

日本発祥の「剣道」は、何よりも礼節を重んじ、一本が決まってもガッツボーズをしたら無効になるという独自の価値基準を持った武道の1つ。日本の伝統文化であり、武士道に通じる日本人の美学でもある特殊な競技です。そんな剣道に小さい頃から打ち込んできたのが、聖光学院高校剣道部の主将としてチームを全国TOP16まで導いた石田聖虎さん。高みを目指して寡黙に修練し、背中でみんなを引っ張ってきた優しいキャプテンですが、竹刀を構えると一変。父、祖父と受け継がれた剣士の血がそうさせるのか、凛としたオーラに包まれます。そんな石田聖虎さんのご両親にお話を聞きました。

経験者として剣道に励む聖虎さんを一番近くで応援し続けてきた父、朋之さん。稽古をつけていた頃は、剣道にとって大切な左半身の使い方など基本を徹底的に教えてきた。2年前に病気をし不自由なこともあるが、優しい聖虎さんが自然とサポートしてくれるという。

最初は反対したんですよ、剣道をやることに

キッカケは聖奈(聖虎さんの1つ上の姉)が、友達に誘われて剣道をやりたいと言い出したことでした。聖虎も「それなら僕も」と。最初私は反対したんですよね。というのも私自身、父の影響で子どもの頃から剣道をやっていたんですが、高校時代に腰を悪くして引退したんです。苦い経験があったから、できれば別のスポーツをやってもらいたかった。でも、「防具は私が買うからやらせてあげなさい」と父に押し切られる形でスタートしました。

郡山市の宏武館というスポーツ少年団で始めたんですが、1年ほどで引っ越しし、国見町の佑武館と国見町剣道スポーツ少年団に所属することになりました。ここに同級生の友達が5人もいたことで、聖虎は一気に楽しくなったようです。

強くなりたいという気持ちもこの頃芽生えてきました。当初、聖虎は6人のグループの6番手の選手でした。剣道の団体戦は5人で戦いますので、当然聖虎は出られません。格上の同級生に追いつけ追い越せと努力し、たまの休みにも私に稽古してほしいと申し出てくるようになりました。しごかれて泣くことはあっても投げ出すことはなく、ほぼ毎日剣道に取り組んだ甲斐あって、6年生になる頃には1番手の選手に。県代表に選ばれるまで成長しました。(父 朋之さん)

おっとりとした雰囲気が滲み出る母、智栄子さん。石田家唯一の剣道未経験者で「今もどっちが一本決めたのかわからないんです」と苦笑い。でも、「剣道をやっている時の聖虎はかっこいいんですよ」と聖虎さん一番のファンでもある。

自分で決めたことはやり抜く。ストイックな一面も

家では勉強もあんまりやりませんし、ソファーに座ってスマホをばかり見ているマイペースな子。でもやると決めたらストイックなところがあり、高校1年の冬に「引退するまでマクドナルドと炭酸飲料を断つ」と言い出して、本当に最後まで我慢しました。親から見ても優しい性格で、手伝いをお願いすると「え〜」と言いながらも必ずやってくれます。だからか、妹の聖依(きより)がお兄ちゃん大好きで、引っ付いて回っています。

食事面では、好き嫌いなく出したものを何でもよく食べてくれるのであまり苦労したことはありません。ただ、最後のインターハイ予選の直前に踵を痛めたんです。レントゲンを撮っても明確な原因がわからなかったのですが、痛みで歩くのも辛そうで。そのときに栄養について学び、気をつけてきました。幅広い食材を使うように心がけていて、特に鶏の胸肉、卵、小松菜やブロッコリーはよく使います。

聖虎が特に好きなものですか? 唐揚げとか生姜焼きとか、若い子が好きな茶色い食べ物は大抵好物ですよ。カレーの日は白米を2合は食べているんじゃないですかね(笑)。そんな調子で引退後も食べ続けていたら1カ月で5キロも太ってしまって、最近はダイエットに励んでいます。(母 智栄子さん)

好き嫌いなく出されたものはなんでも美味しくいただく派。でも、お母さんのご飯と好物のラーメンは別格かも。スープやご飯が温かいまま食べられるランチジャーは、しばれる冬場の練習に欠かせない存在で、高校1年生から愛用中している。

剣道で培ったものを武器に、思い切り羽ばたいて欲しい

聖光学院に入学し、たくさんの貴重な体験をさせていただきましたが、2年の秋に主将に選ばれたことでひと回り大きく成長したように感じます。チームの目標を「全国ベスト16」に決め、これまで以上に自分を律して頑張っていました。結果、有言実行を成し遂げ、我が子ながら立派だと思います。

「進学したい」と言うようになったのもこの頃。それまでは就職希望だったのですが、部員たちや他校のライバルたちに触発され、大学でさらに上のレベルで勝負したいという気持ちになったようです。剣道を続けてきたことで、尊敬できる仲間ができ、視野の広い考えも持てるようになった。人とのつながりに感謝です。(父 朋之さん)

東京の大学に進学することが決まり、春から一人暮らし。料理を教えると「はい、わかりました」って言うけど、本当に頭に入っているのか怪しいです(笑)。

聖虎は小さい頃から友達に恵まれて、剣道を楽しみながら続けてくることができました。それがすごくよかったと感じています。遠征に行くときは決まって「ケガをせずに楽しんでおいで」と送り出してきたけど、門出の時も一緒。ケガに気をつけて、剣道を楽しんでいってくれたらそれだけで十分です。(母 智栄子さん)

From Child to Parents

試合の時はポーカーフェイス。どっしりと構えながら、澄んだ眼で相手の動きを読み、一瞬の隙を突く聖虎さんの姿に惚れ惚れしてしまいます。インタビュー中も、飾らない言葉の端々に成熟した精神性を感じました。それでいて可愛らしく、カメラを向けるとつい笑ってしまうシャイな一面も。いま高校3年生。春には故郷を離れて上京し、大学で剣道を極めようとする聖虎さんに、父 朋之さんは「剣道を続けてきたことで、理不尽なことに遭遇してもいったん受け入れて、冷静に考える素地ができたと思います」と太鼓判を押します。剣道を通して自分を見つめ、自己を律することで剣道を上達させる日々は無限ループのように続いていくでしょう。

「仲間がいるから楽しい」と何度も口にした聖虎さん。強豪校への越境入学を勧められた中学入学時も「友達と離れたくない」と地元を選んだ。聖光学院でも、先輩後輩関係なく、なんでも言い合える仲間を作った。

剣道って、難しくて奥深くて面白い

剣道って奥深くて、この技ができれば勝てるみたいな必殺技がないんですよ。実績がない人がトップレベルの選手に勝つこともしばしばあります。自分自身も過去、手痛い敗北をしたことがあって、その時は大体調子に乗っている時でした。「この試合はいけるだろ」という慢心があると、相手の様子を見ることが疎かになって、不意を突かれてしまうんですよね。心の状態が勝敗に大きく関わる、そういうところが難しいけど面白いところでもあります。

試合で勝つと嬉しいですし、仲間と和気あいあいとしながら剣道するのが好きなんですよ。小学校3年生から剣道を始めて、いろんなチームに参加してきましたが、いつも一緒に剣道をする仲間がいてくれたから楽しく続けて来られました。中学では、自分の代で男子剣道部を創出したから先輩はいなかったけど同級生や後輩がいて、自分が教えることでチーム全体がレベルアップしていくことにやりがいを感じました。

聖光学院剣道部は、福島県の強豪揃いなんで小さい頃からの顔馴染みばかり。間違いなく今まで所属したなかで一番強いメンバーに囲まれていますが、先輩後輩関係なくみんな仲が良くて、厳しい練習も乗り越えることができました。

厳しくも楽しい。聖光学院の剣道部の雰囲気を表しているような熊坂洋平監督。聖虎選手について聞くと「芯が強く、真面目。気分にもムラがなく、常に強さを発揮してくれる頼れる大将です」とベタ褒め。

選抜大会県予選での惜敗がインターハイの原動力に

今までで一番思い出深い試合は、2023年1月に行われた選抜大会の福島県予選です。磐城桜が丘高校との団体戦で、先鋒、次鋒、中堅、副将と4人が引き分けて大将である自分に回ってきたんですが、そこで負けてしまって全国大会への切符を逃してしまったんです。秋の新人戦では磐城桜が丘高校に勝って優勝していたんで、天狗になっていたのかもしれません。それで練習内容はもちろん、私生活や学校生活での態度も見直して、猛省しました。

例えば、もともと部員同士の仲は良かったけれど、もっとこうしたほうがいいんじゃないかって言い出しやすいチーム作りを心がけたり、剣道や他のスポーツのトップ選手が実践していることを取り入れたりしました。また、自分は主将として、一番強くて説得力のある選手になりたかったから、疲れた時も「疲れた〜」とは言わないようにしましたし、基本練習でも細かいところまで手を抜かないように意識していました。

そういう意識改革があったから、インターハイでベスト16という結果が出せたのだと思います。本当は、決勝トーナメントでも勝ちたかったですけどね(笑)。

意志決定の早さはさすがキャプテン。照れながらも、パパッとご両親へのメッセージを書いてくれた。春には福島を離れ、東京で一人暮らしをする聖虎くんから「大丈夫だよ、寂しがらないでね」と家族に向けて送るエールなのかも。

自分、剣道大好きなんで!

春からは進学のため上京して一人暮らしが始まります。24時間好きなように過ごせることにワクワクするけれど、家事など親がいなくてちゃんとできるかなという不安もあります。お母さんの料理はなんでも美味しいですし、ケガをしてからは特に栄養バランスにも気を使って作ってくれたんでなおさら。

でも、実は料理には興味があって、TikTokなどで「この料理作ってみたいな」という動画をチェックしたりしてるんですよ。あとはラーメンが好きなので、空いている時間で東京の美味いラーメン屋を巡るのが楽しみです。

今まで自分が剣道に打ち込める環境を整え、ここまで導いてくれたのは、お父さんやお母さんをはじめとした家族のおかげ。これからは一人で生活をしながら剣道に打ち込み、より高いレベルの選手になれるよう頑張っていきます。

ちなみに将来の夢は、剣道ができる環境が整っている警察官や刑務官などの公務員になること。剣道を追求しながら、剣道で培ってきたものを生かして社会に貢献していきたいです。自分、剣道大好きなんですよね!

※2024年2月 公開