急冷式と水出しで味わいは変わる? アイスコーヒーの基本の淹れ方
爽やかな苦味とほのかな香りが楽しめる「アイスコーヒー」。自宅で本格的なアイスコーヒーを淹れるためのポイントをDay Drip Coffeeの黒田悟志さんに教えていただきます。
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黒田 悟志(くろだ・さとし)
Day Drip Company 代表。スペシャルティコーヒーと呼ばれる良質なコーヒーの世界や、その魅力を伝える為に、勤めていた自家焙煎店から独立し、独自のブランド「Day Drip Coffee」をオープン。『極める 愉しむ 珈琲辞典』(西東社)の監修協力のほか、「CLUB THERMOS」で連載も行う。
Facebookページ:https://www.facebook.com/daydripcoffee/?ref=bookmarks
爽やかな苦味とコクのあるコーヒー、スッキリとした酸味とキレのあるコーヒー、酸味と苦味のバランスがよいコーヒーなど、さまざまなアイスコーヒーがあります。黒田さんは「おいしいアイスコーヒーは人の数だけある」と話します。
「多くの人がアイスコーヒーに求めるのは、苦味とコク。しかし最近では、酸味のあるフルーティなアイスコーヒーを提供するお店も人気です。おいしいアイスコーヒーを淹れるためには、まず自分の好みの味を知ることが大切です」(以下、黒田さん)
専門家によって、淹れ方やレシピが異なるのは、それぞれが「おいしいアイスコーヒー」を求めた結果。基本を押さえた上で、自分だけのおいしさを見つける旅へ出ましょう。
アイスコーヒーの代表的な淹れ方には、「急冷式」と「水出し式」の2種類があります。
お湯で抽出したコーヒーを氷で急速に冷やす淹れ方。コーヒーサーバーにたっぷりの氷を入れた上で、ペーパードリップと同じ手順でコーヒーを抽出します。
「急冷式アイスコーヒーの特徴は、スッキリとした味わいに華やかな香り。急速に冷やすことで、抽出されたコーヒーの味と香りをそのまま閉じ込めることができます。コーヒーの味が変化しやすいため、その日のうちに飲み切るようにしましょう」
水でゆっくりコーヒーを抽出する淹れ方。コーヒーの粉を入れたコーヒーパック(不織布のフィルター)を水に浸し、冷蔵庫に入れて8〜12時間かけて抽出します。
「水出し式アイスコーヒーの特徴は、まろやかでコクのある味わい。急冷式(ペーパードリップ)に比べて豆の油脂成分が出やすいため、豊かな味わいを楽しめます。時間の変化を受けにくいので、しっかりフタを閉じて冷蔵庫で保存すれば、2日間程度はおいしくいただけます」
まずは、急冷式でおいしいアイスコーヒーを入れる3つのポイントをおさえましょう。
●お好みのコーヒー豆を使う
●豆は多めに使う(目安はホットコーヒーの1.2〜1.5倍)
●氷に直撃させる
「国内では、多くの人がアイスコーヒーに苦味やコクを求める傾向にあります。またコーヒーは温度が低いと酸味を強く、苦味を弱く感じることもあり、一般的にアイスコーヒーには深煎りの方がおすすめです」
雑味を抑えつつ、豆の香りや味わいをバランスよく引き出す、基本のレシピは以下の通りです。
【1】中細〜中挽きで挽いた豆20gをペーパーフィルターにセットし、90℃前後のお湯約140mlを用意。コーヒーサーバーには、たっぷりの氷を入れる。
「出来上がり量に対してお湯の量が少ないのは、氷が解け出すため。20gの豆に約140mlの湯を注ぐと、約100mlのコーヒーが抽出されます。それが氷に直撃し解け出すことで、約200mlのアイスコーヒーが出来上がります」
【2】粉全体が湿るように、中央からゆっくりとお湯を注ぐ。
通常のペーパードリップ同様、コーヒーの淹れ方は「蒸らし」と「抽出」の2段階に分けられます。蒸らしは豆の成分を引き出すための下準備の段階。中央から円を描くようにゆっくりお湯を注ぎ、粉全体にお湯を行き渡らせます。
ドリッパーからコーヒーがポタポタと垂れてきたら、お湯を注ぐ手を一旦ストップ。そのまま30秒ほど待ちます。
【3】ゆっくりと円を描くように、一定量のお湯を注ぐ。
ここから、本格的な抽出の段階です。レシピの抽出量を目指し、2回程度に分けてお湯を注ぎます。粉はドリッパーの中央に集まっているため、中央からゆっくりと円を描きながら一定の湯量を注ぎましょう。
急冷式では通常のペーパードリップよりも抽出量が少ないため、抽出の1回目で大半を注ぎ、2回目で目標の抽出量まで調整するイメージでドリップしましょう。
「味と香りをしっかり閉じ込めるため、抽出したコーヒーを氷に直撃させるのもポイント。どうしてもコーヒーの当たっている氷だけが溶けていくので、抽出中にドリッパーを少し持ち上げて、サーバーを軽く揺すり、氷を馴染ませてあげましょう」
【4】目標の抽出量をサーバー内に抽出したら、ドリッパーを外す。
【5】アイスコーヒーの出来上がり!
これでアイスコーヒーの抽出は完了。サーバー内の氷ごとコップや水筒に注いでもOKですが、お店のような本格アイスコーヒーを楽しみたい方は、コップに新しい氷を入れるとよいでしょう。
さっそくいただくと、爽やかな苦味の中に、ほのかな酸味と甘味を感じられました。雑味のないクリアな味わいで、これからの暑い季節にピッタリです。
「氷が解けて味が薄くなるのが気になる方は、アイスコーヒーを凍らせた『コーヒー氷』を入れるとよいでしょう。違う豆や淹れ方で作ったコーヒー氷を使えば、時間が経つごとに変化する味わいが楽しめますよ」
夏になると、マイボトルにアイスコーヒーを入れて外出先で楽しみたいという人もいるはず。でも、コーヒーサーバーに抽出してから、水筒に移し替えるのはちょっと手間かかる……。そんな時は、水筒にそのまま抽出することも可能です。
手順は先程と同じで、まず水筒にたっぷりの氷を入れ、そのままコーヒーを抽出していくだけ。
水筒の中で温度が一定に保たれるので、外へ持ち運んでも冷たさが持続してくれます。
続いて、水出しアイスコーヒーの淹れ方をご紹介します。
次は、水出しでおいしいアイスコーヒーを入れる3つのポイントをおさえましょう。
●お好みのコーヒー豆を使う
●豆は多めに使う
●水は軟水にする(水道水なら浄水器を通す)
「ポイントは浄水器を通した水か、軟水のミネラルウォーターを使うこと。水出し式ではお湯を沸騰させないため、水道水をそのまま使うと、カルキによりコーヒーの風味が損なわれることがあります」
抽出比率、水の温度、粉の粒度といった基本のレシピは以下の通りです。
【1】豆50gに対し、500mlの水を用意。急冷式と同じく、豆は中細〜中挽きになるようコーヒーミルで挽いて、コーヒーパック(不織布のフィルター)に、こぼれないように粉を入れる。
「急冷式にもいえることですが、アイスコーヒーでは濃いめに作るのが基本。濃い分には調整できますが、薄めだと後戻りできなくなります。一度にたくさんの豆を使いますが、あまりケチらないようにしましょう」
【2】粉を全部入れたら、中身が飛び出さないように口を裏返して、しっかり閉じる。
【3】コーヒーサーバーやピッチャーなどに粉を入れたコーヒーパックを入れ、目標量(500ml)の水を注いだら、冷蔵庫で8〜12時間置く。
「コーヒーパックを先に入れてから水を注ぎましょう。あとからパックを入れると浮いてしまい、豆に水が浸透するのが遅くなってしまいます。水は常温のままで大丈夫です」
過抽出を避けるため、抽出し終えた段階でコーヒーパックは取り出しましょう。これで水出しアイスコーヒーの完成です!
アイスコーヒーといえば、苦味を味わうもの。そんなイメージを持つ人も少なくないでしょう。しかし、黒田さんは「アイスコーヒーにも幅があり、さまざまな楽しみ方がある」と言います。
「急冷式ではフレンチプレスやエスプレッソでも抽出できますし、水出し式では酸味が抜けやすい特性を持つ硬水を使うことで、新しい味わいを楽しめるかもしれません。いろいろ試す中で失敗もあると思いますが、それを含めてコーヒーを楽しんでもらえたらいいですね」
「自分でコーヒーを淹れる時、私たちは農家や焙煎所からコーヒー豆というバトンを受け取った最終走者のような存在です 。消費者ではなく、生産者の一員としてコーヒーに携わっている。だからこそ、コーヒーを淹れる瞬間は日常から切り離され、自分の心がちょっと緩みホッとする。そんなコーヒーの醍醐味を感じていただければ嬉しいです」
レシピ通りに作ったはずなのに狙い通りの味にならなかったり、手順を間違えたと思ったらすごくおいしく仕上がったり。そんな試行錯誤を楽しめるのが、作り手のおもしろさでもあります。自分好みの味を見つける旅をしながら、ぜひアイスコーヒーの醍醐味を堪能してみてくださいね。
撮影:栃久保 誠
編集:ノオト
野阪 拓海
のさか・たくみ
コンテンツメーカー・ノオトに勤めるライター/編集者。学生時代にデンマークへ留学した際、フェアトレードのコーヒーをいただき、その味に衝撃を受ける。以来、カフェやロースタリーを巡ることが趣味に。
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