新緑の季節が到来! 自分だけの “フリースタイル散歩”でリフレッシュ
5月といえば、新緑の季節。やわらかな日差しの中で、緑を感じて散歩するのがとても気持ちいいシーズンです。「この気持ちよさには、ちゃんとした科学的根拠があるんですよ」と教えてくれたのは、森林浴研究の第一人者・宮崎良文先生。散歩をより充実させるコツを教えていただきます!
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宮崎良文
みやざき・よしふみ
千葉大学グランドフェロー。医学博士。東京農工大学修士課程(環境保護学)修了。東京医科歯科大学医学部助手、独立行政法人森林総合研究所生理活性チーム長を経て、2019年3月まで千葉大学環境健康フィールド科学センター教授・副センター長。30年以上前から「森林浴」研究を行うパイオニア。著書に『森林浴はなぜ体にいいか』(文藝春秋)、『Shinrin-Yoku(森林浴)心と体を癒す自然セラピー』(創元社)などがある。
千葉大学 環境健康フィールド科学センター 自然セラピープロジェクト:http://www.fc.chiba-u.jp/research/naturetherapy/
先生、今日はよろしくお願いします! 私、めっちゃ家が大好きで、できたら家にずっといたい派なんですけど、久しぶりに公園を歩いてみたら、やっぱり気持ちいいもんですね。なぜか、からだも心も癒されるというか……。
はい、よろしくお願いします。散歩ってなんとなくリラックスするでしょう? 実はこの“なんとなく”が、サイエンスにおいてもちゃんと解明されているんですよ。それはズバリ、人のからだが自然に対応してできているから。インドア派の船橋さんのからだもね。
えっと……、自然に対応しているって、どういうことですか? ちなみに私、シティ生まれ&育ちの都会っ子なので、自然が恋しいみたいな感情がほぼないのですけど……。
都会育ちも田舎育ちも、誰もがみんな自然に触れるとリラックスしてしまうものなんですよ。というのも、人間が誕生したのは今から600〜700万年前と言われていますが、今のような人工物に囲まれる生活が始まったのは、産業革命以降のここ200〜300年の話。何百万年も自然の中で暮らしてきた人間の遺伝子が、この数百年というほんのわずかな時間で進化するとは考えられないんです。
あ〜、なるほど〜(←絶対に理解できてない)
まぁ簡単にいうと、私たちは自然に対応するからだを持っているにも関わらず、人工環境下での暮らしを強いられているから、常にストレス状態ってことですね。
ほほう! 仕事や家事のプレッシャーとかわかりやすいストレスだけじゃなくて、人工物に囲まれた生活を送っているだけで、遺伝子レベルでストレスを感じちゃってるわけですね。通りで毎日イライラすると思った。
そうそう。だからそんな人には、リラックス効果のある自然との触れ合いがおすすめ。私がこれまで行ってきた森林浴の実験でも実証されていますし。
どんな実験ですか?
森の中と都市の中、それぞれ15分間歩く・座って過ごすというフィールドワークなんですけど、森の中に身を置いた方が脳の中で物事の判断を司る前頭前野が鎮静化し、リラックス状態で高まる副交感神経活動が優位になり、ストレスホルモン濃度も低下するという結果が出ました。要するに、人は自然に触れることで心身ともにリラックスできる、ということ。
え、うそん。自然って、めっちゃすごいじゃん……。
実験には高血圧の人にも参加していただいたのですが、森に行った後は血圧が正常値になるばかりか、その翌日、3日後、5日後も正常値が続くという結果も。これだって人間のからだが自然に対応しているからなんですよ。自然に調和した人間らしいからだに戻ろうとしている証だからね。どう? 人と自然の関係っておもしろいでしょう?
ぎゃふんっ。自然のパワーもすごいけど、わかりやすく説明してくれる先生もすごいわ。
今すぐにでも散歩に出かけたいんですが、より効率的に自然からの癒し効果を得られる散歩術ってありますか?
コツはあります。
やっぴー! さぁさぁさぁ、教えてくださいな〜。
寒さや暑さを考えた上で適切な服と靴を選ぶことと、安全なルートを歩くことは大前提。一番大切なのは、自分が心地いいと思える散歩の仕方を見つけること。これに限ります。
え? こういった場合、通常ですと、散歩におけるうんちくを伺うのがセオリーなんですが……。
もちろん、自然を享受しやすくするため、五感を研ぎ澄ませて散歩するのがおすすめというのはありますし、記事内で森林浴○箇条などと提示したらわかりやすいかもしれません。だけど、そういう時代はもう終わったんですよ(にっこり)
は、はい……(急にお説教始まっちゃった)
今は受動的でなく、能動的に行動を起こす時代。だから私が提示する散歩のコツを実践するのではなくて、自分が好きな散歩の方法を模索するべきだと思います。
能動的な散歩……。
自分がどんな花や緑が好きなのか、どんな香りに惹かれるのか、どんな音を聞くと癒されるのか。そんなことを探りながら散歩するのって、自分だけの特別なルールを作るようで楽しいですよ。散歩にルールなんてないんですよ。自分が心地いいと感じられる自然を選ぶのが、一番のリラックス方法。なんだってやっていいんですから。サイエンスからも裏付けられていますよ。
うう……。〇分以上は歩いた方がいいとか、おすすめの時間帯は朝だとか。そんなアドバイスは……?
そんなもの決めたらダメ。誰かが決めたルールに縛られた散歩になってしまったら、ストレスが溜まっちゃうじゃないですか。そうなったら、もう本末転倒ですからね。いわば今って、受動的快適性から能動的快適性に移行する過渡期ともいえる大切な時期。背筋を伸ばして歩かなきゃいけない、この時間に散歩しなきゃいかないといった、誰かが作ったルールなんて手放すべき時なんですよ。だから柔軟な考えを持って散歩を楽しんでほしいし、なんならもっと自由に生きていってほしい。
先生〜(感涙)!!!!!
今後の生き方にも通ずる情熱授業を繰り広げてくださった宮崎先生。ここからは、自分なりの散歩の楽しみを見つけるヒントを伺います。
大切なのは、自然の中に自分が溶け込む状態を作ること。そのために五感を研ぎ澄ませて自然を感じるのもいいですね。散歩中に見つけた木に手で触れたり、鳥のさえずりに耳を傾けたり。何より大切なのはリラックスすることなので、好きな音楽を聞いていた方が心地いいと感じる人は、ヘッドホンをつけてもいいんですよ。
へぇ〜。本当に散歩って自由スタイルでいいんですね。私は三度のメシよりもメシが好きなので、散歩の途中に自然の中でごはんを食べたいです!
いいですね〜。自然の中で食べるごはんはおいしいとよく聞きますけど、実はそれって理にかなっているんですよ。自然の中に身を置くと、副交感神経活動が優位に働いてリラックスした状態になるから、おなかが空くのは当然ですからね。だって緊張状態になる交感神経活動が優位になっていると、おなかなんて空かないでしょう?
そうですね(今おなか空いてることは黙っておこう)。ちなみに先生は、普段どんな散歩をされているんですか?
近所の川沿いのコースを妻と散歩するのがお決まりですね。1kmちょっとの散歩コースなんですが、1時間半くらいかけてゆっくり歩きます。小鳥がちゅんちゅん鳴いてるのを聞いたり、途中にあるパン屋さんでひと休みしたり。雨と風が強い日以外は、ほぼ毎日歩いてますよ。
1人よりも2人でする散歩の方が楽しいんですかね?
僕の場合、散歩は気の合う人と一緒にするのがベスト。ナチュラルな自分でいられるから、周りの自然とも調和しやすいんです。さっきも言ったように、散歩は常識の範囲内なら何をしてもOK。なんでも主体的にやった方が人生楽しくなるからね。
インドア派の私でしたが、今後は先生のように自分流の散歩を楽しみたいと思います。というか、先生みたいな生き方、めっちゃいい。うらやましいです。
ふふふ。好き放題生きてきたから、人生が楽しいですよ。まぁ、周りは大変みたいですけどね(笑)
「散歩にルールなんてない」ときっぱり言い放ってくれた宮崎先生。何事もルールを決めて枠にはめてしまいがちですが、自分流の散歩をすることが最大の癒しになるそう。過ごしやすい気温が続くこの季節、好きな自然に触れる自分だけの散歩を楽しんでみて。そのついでに、もっと自由に生きていこうではありませんか〜!
編集:ノオト
船橋 麻貴
ふなばし・まき
雑誌やWEB、広告などで執筆中。生涯の目標に締切厳守を掲げるものの、いろいろ遅れがちな人生。特技は暴飲暴食と思いつき旅。焼き菓子&パン1年生。
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