旬を漬けて季節を愉しむ。山田奈美さんに教わる、ぬか床の作り方と育てるポイント
ぬか漬けは季節を重ねるごとに愛おしさが増す営みのひとつです。春夏秋冬、旬の野菜をぬか漬けにすることを思い浮かべるとワクワクします。薬膳・発酵料理家の山田奈美さんに、ぬか床の作り方と長く育てるためのポイントを教えてもらいました。
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山田 奈美
やまだ・なみ
薬膳・発酵料理家。食べごと研究所主宰。葉山「古家1681」にて和食薬膳教室、離乳食教室、発酵教室などを開催。著書に『ぬか漬けの基本。はじめる、続ける』(グラフィック社)、『季節のお漬けもの』『菌とともに生きる発酵暮らし』(家の光協会)などがある。最新刊は『いつもの食材と調味料で 体が整うごはん』(ナツメ社)。YouTubeでは『山田奈美の発酵暮らし』を配信中。
Instagram:https://www.instagram.com/nami_yamada.tabegoto/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCO2llycmFaFS95f0rrElytw
旬にたっぷり手に入った野菜を料理するなら、お漬物も選択肢のひとつ。「ぬか漬けもいいな」と思いながらも、作って終わりではないのがぬか床です。ぬか床をうまく育てられるか不安で始められない方も多いようですが、暮らしのなかで無理なくぬか床を続けることはできるのでしょうか?
実は冷蔵庫でぬか床を保存するなら、毎日かき混ぜなくても大丈夫。最近はスーパーなどで、出来合いのものも手に入りますが、イチからぬか床を作るのは難しくありません。
ぬか床の発酵に最適な気温は20〜25℃。そのため初夏は、ぬか漬けをはじめるのに適した時期ともいえます。大抵のことは取り返しがつくので失敗を恐れず、一緒にぬか漬けを作っていきましょう。
- 生ぬか(炒りぬかでも可)…1kg
- 塩…110g
- 水…800〜1000ml
- 唐辛子…1個
- 昆布…10cmほど
- 捨て漬け用の野菜…60gほど
【1】大きめのボウルに塩と生ぬかを入れ、まんべんなく混ぜ合わせる
ぬかには農薬が残留しやすいのでできれば無農薬のものを用意してください。塩の分量は110gとしていますが夏場は雑菌が増えやすいので、多めに120gで作るといいですよ。私は天然塩を使用しています。
塩とぬかは次の工程でもしっかり混ぜ合わせるので、この段階では、少しムラになっていても問題ありません。
【2】水を加えて混ぜあわせる
水はまず最初に800mlほどを一気に加えましょう。必要な水の量は、ぬかの状態やその日の気温、湿度によって変わります。混ぜながら少しずつ水を加えて、粉っぽさがなくなり全体がまとまるくらいになったらOKです。
【3】ぬかを容器にうつして空気を抜き、平らにならす。
ぬか床はいろんな菌の力を借りて発酵していきます。特に乳酸菌、酪酸(らくさん)菌、酵母菌の一種である産膜酵母が多いといわれていて、乳酸菌と酪酸菌は発酵するときに酸素を必要としません。空気が入りすぎていると増殖しにくいので、ムラなく空気を抜いてくださいね。
ぬか床を育てる容器は、素材によって水分の飛び方、熱の伝わり方が違って発酵の具合が変わってきます。
琺瑯(ほうろう)の容器は水分が飛びにくく、野菜を漬けているうちにぬかの水分量が多くなってしまうことがあるので要注意。逆に木樽は水分がよく飛ぶので、こまめに水を足したほうがいいです。
【4】唐辛子と昆布を差し込むようにして入れる。
殺菌作用のある唐辛子とうまみを加える昆布を差し込むようにしてぬか床に埋めます。私は大体1ヶ月くらいで取り替えていますね。昆布を溶かす菌もいるので、たまに昆布は消えていることがありますが。
ぬか床にからしや干し椎茸、しょうが、山椒などを入れる方もいらっしゃいます。煮干しや鰹節はうまみが出る一方で動物性の香りも立つので、好みが分かれるところです。ご自身の好みの味わいに合わせて、研究するのも楽しいですよ。
【5】捨て漬け用の野菜をぬか床にうずめて、容器の周りを拭き取る。
捨て漬けはぬか床にいる菌を育てるために必要な工程です。野菜はそのとき家にあるものをひと掴みくらいラフに使います。捨て漬けを食べたいといわれることもあるのですが、塩味が強いのでおすすめしません。
容器の周りについたぬかからカビが発生してしまうこともあるので、キッチンペーパーなどを使って綺麗に拭きます。指でなぞって拭うのでもいいです。
【6】2週間ほど常温に置いて、3〜4日おきに2〜3回【5】を繰り返したら、ぬか床の完成。
捨て漬けを繰り返すと、徐々にあのぬか漬け独特の乳酸発酵の酸っぱい香りに変わっていきます。そうしたら、ぬか床の完成。自分の好きな野菜を漬けていきましょう。
ぬか漬けは食べたときのおいしさはもちろん、こうしてぬかを混ぜているときも楽しいんですよね。小さい頃、祖母がぬか漬けをかき混ぜている様子が宝探しみたいで、横で見ている時間がすごく好きでした。
このぬか床は育てはじめて22年ほど。最初は小さな琺瑯(ほうろう)容器ではじめて、ぬかを足していくにつれて容器も大きくなりました。混ぜながら話しかけたりもします。
にんじんやカブなど、アクが少ない野菜は生のまま漬けています。ジャガイモは固めにふかしてから。そら豆は薄皮ごと、サッと茹でてから漬けました。そら豆は小粒なので、お茶パックやキッチンネットなどに入れて漬けると迷子になりにくいです。
お気に入りを聞かれると迷いますが、おすすめは干し柿。ぬかの塩っ気やうまみで甘さが引き立ち、奥行きのある味わいです。干し柿は、固めのものはそのままぬか床に。柔らかいものは溶けてしまうことがあるので、別の容器で漬けることもあります。
豆腐やお肉、魚のぬか漬けにもぜひチャレンジしてみてください。ぬかを薄くまぶし、ぬか床とは別の容器や袋に入れて置いておくだけで作れます。お酒にもよく合いますよ。
漬かり具合の好みは人それぞれですが、古漬け(長時間漬け込んだもの)が食べられるのも、自家製のぬか漬けならでは。古漬けは刻んで、お湯を沸かした小鍋でサッと煮立てて、スープにするのもおすすめです。味が薄いと感じる場合には、塩やお醤油を少々入れてみてください。そのほかチャーハンの具材として使ってみてもおいしいです。
実は取材チームには、かつてぬか床育成に挫折したメンバーが2人もいました。ここからは、失敗経験をもとに長く続けるコツをお聞きします。
Q.どのくらいの頻度でぬかを足すのが良いのでしょうか?
ぬかを足すことを「足しぬか」と呼びます。だいたい1ヶ月ごとにカップ1杯のぬか、重量の7%の塩を入れてみてください。ぬか漬けの味が落ちてきた、ぬか床が傷んできたなと感じたときにも足しぬかをするといいです。足すお水の量は、ぬかの状態を見ながら調整しましょう。
Q.毎日かき混ぜないといけませんか。
冷蔵庫で保存するなら、毎日でなくとも問題ありません。3日くらいサボっても大丈夫。かき混ぜるのは、ぬか床に棲んでいる菌のバランスを調整するためです。空気に触れさせないと、嫌気性の菌(酸素を必要としない菌)が増えていってしまうんですよね。反対に空気に触れている上の部分には好気性の菌(酸素を必要とする菌)が増殖してしまいます。
逆に混ぜすぎるのも、せっかく増えた菌がいなくなってしまうのでよくありません。うっかり放置してしまったときは、悪くなった上の部分だけ取り除いて、足しぬかをすれば復活させることもできますよ。
Q.長く家を留守にするときは、どうしたらいいですか。
2〜3週間なら、(足しぬかと同じ分量の)ぬか床の上にぬかと塩、唐辛子を振っておくといいです。もっと長く留守にするなら、チャック付きの保存袋に入れて冷凍してしまうのもひとつの手。自然解凍すれば、また元通りにぬか漬けが作れます。
Q.カビが出てきたら、どうしたらいいですか。
黒や緑、赤のカビはスプーンですくって、少し足しぬかをすれば大丈夫です。さらにいうと白いツブツブしたカビに見えるものは、産膜酵母という菌の場合がほとんど。もともとぬか床も菌で発酵させているので、大きな心配は不要です。
Q.漬けるごとに水が出てしまって、うまくいきません。
ぬかは握ってみて水が滴るくらいがちょうどいい水分量です。水が出たときは、なるべく足しぬかで調整するのがおすすめ。乾物を入れて吸わせるのもおすすめです。キッチンペーパーで吸うのは、栄養分やうま味成分まで吸い取ってしまうのでもったいないです。
お悩み相談のようにどんどん質問する私たちに、山田さんは「私も最初のころ失敗をした」と明かしてくれました。
ぬか漬けを作り始めて1年目のころ、仕事で忙しくて1ヶ月くらい放置してしまったことがありました。でも、ちょっとおかしくなっても、実は意外と大丈夫。難しく考えすぎないで、まずはやってみて、日々ぬかを混ぜていたらわかってくるものです。
ぬか床と日々向き合い旬の野菜を漬けていると、新しく発見することがありそうです。まずはぬかを買いに行かなくっちゃ。
撮影:藤原葉子
編集:ノオト
ふくい
食いしんぼうライター、編集者。相撲の番付表がある酒場とレモンスカッシュのある喫茶店、ナルトのはいった炒飯がある町中華が好き。
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