寝苦しい時期も心地よく。睡眠のスペシャリストに聞く「睡眠環境の整え方」
日に日に気温が上がり、寝苦しくなってくる時期。ぐっすりと質の高い睡眠を取るためには、どうすればいいのでしょうか。快眠セラピスト・睡眠環境プランナーの三橋美穂さんに、よく眠るための工夫について伺いました。
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三橋美穂
みはし・みほ
これまで1万人以上の眠りの悩みを解決してきた快眠セラピスト・睡眠環境プランナー。寝具や快眠グッズのプロデュースやホテルの客室コーディネートなどを手がけながら、『眠りのさじ加減 65歳からのやさしい睡眠法』(青志社)などの書籍も出版している。
人の体は、日中にダメージを受けた細胞の修復やメンテナンスを寝ている間に行います。そのため、心身の健康に睡眠は必要不可欠なもの。ですが高温多湿な梅雨や夏は寝つきが悪くなりがちです。
季節によって眠りやすさは多少変わります。だからこそ、除湿機やエアコンなどの家電を適切に使いながら、眠りやすい環境を整えて良い睡眠をとることが大切です。
良い睡眠かどうかを判断するには「睡眠休養感」が決め手になるのだそう。
朝起きたときに休養できた実感がしっかりあって、日中眠気で困らなければ、それは良い睡眠といえるでしょう。また、必要な睡眠時間には個人差がありますが、量と質のバランスが保たれていることが重要です。質が良ければ量が少なくてもいいというものでもありません。
逆に「悪い睡眠」とは、眠りが浅いことと、睡眠時間が足りていないこと。眠りが浅いかどうかは、「寝つくまでの時間」と「寝ている間に覚醒する回数」でわかります。
寝つきが悪いと睡眠が全体的に浅くなってしまいます。布団に入ってから寝つくまでに30分以上かかるのであれば、寝つきが悪いといえますね。寝ているときに何度も目が覚めるのも、眠りが浅い証拠。ただし目が覚めてもすぐにまた眠れるのであれば、気にしなくても大丈夫です。
良い睡眠には、日中の過ごし方も大きく関係しています。特に心がけたいのは下記の3つ。
- 毎朝同じ時間に起きる
- 朝食をとる
- 太陽の光を浴びる(起床後すぐ1分&午前中に30分以上)
睡眠や覚醒のリズムを整えるホルモン「メラトニン」の原料になるのは、幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」。セロトニンは一定量以上の光を浴びることで生成されます。
まず朝起きたら、太陽の光を1分くらい浴びましょう。そのあとも、ベランダで洗濯物を干したりスーパーに行ったりと小刻みでもいいので、午前中にトータルで30分以上は太陽光を浴びてください。ベランダや窓際で朝ごはんを食べるのもおすすめです。
ちなみに曇りでも、室内の照明よりも屋外の光のほうがずっと明るいんです。なので、できるだけ外に出てみてください。日傘を差していてもOKです。
良い眠りのためには、就寝前に身体の深部体温(脳や内臓など身体内部の温度)を下げるのもポイントです。そこで大切なのが、入浴のタイミング。
お風呂は就寝の1~2時間前に入るのがベスト。40度くらいのぬるめのお湯に15分くらい、額がうっすら汗ばむまで浸かるのがおすすめですよ。
入浴で上昇した深部体温は、お風呂あがりにグッと低下します。そのタイミングで入眠すると、ぐっすり眠れるのだそう。
……なのですが、せっかくお風呂で深部体温を上げても、部屋が蒸し暑いと体温が下がらず、なかなか寝つけません。就寝時にエアコンをつけるのはもったいないと思う方もいるかもしれませんが、エアコンで室温を快適に保つのは心身にとって大切なこと。夜間熱中症の防止にもつながります 。
布団の中を33度くらいに保つと快適に眠れます。なので、夏は25度~28度を室温の目安にするといいでしょう。
寝るときの服装は、就寝用のパジャマがよいとのこと。
体は睡眠中に放熱するため、ゆったりした薄手のパジャマを選ぶと熱がこもらず快適に過ごせます。下は長ズボン、上は半袖でも長袖でもいいでしょう。袖口が広くて首元が空いたものを選ぶとリラックスできますよ。なお、靴下を履いて寝るのは、冬でもあまりおすすめできません 。つま先を覆ってしまうと、放熱しにくくなってしまうからです。履くなら緩めのレッグウォーマーがいいでしょう 。
そのほかにも、夏に適した寝具はあるのでしょうか。三橋さんがおすすめする寝具は「敷きパッド」とのこと。
通気性のいい敷きパッドは、暑い日も快適に眠れるのでおすすめですね。シーツだと身体が密着している部分の温度が上がりますが、高通気敷きパッドは隙間が空いているため熱が逃げていくんです。寒い時期は、保温性の高い冬用の敷きパッドに変えると快適に過ごせます。
さらに季節に関わらず重要なのは「枕」。
枕は、寝ているときも“立っているときの姿勢”を保てるものを選ぶといいですよ。枕が高すぎると、うつむくような姿勢になるので、首や肩が凝ったり息がしにくくなったりします。背中を壁につけて立つと、首の後ろに隙間ができますよね。その隙間を自然に埋めてくれる枕が理想です。
「カーテンを自動で開けてくれる装置」もおすすめなのだとか。
就寝時は暗いほうが入眠しやすく、起床時には光が差し込んでいたほうが目覚めやすいんですよね。そんなニーズに対応してくれるのが、スマートフォンなどで設定した時刻に自動でカーテンがゆっくり開く装置。こういった便利なデバイスを活用するのもひとつの方法だと思います。
一方、寝る前に控えたいのが「寝床スマホ」だと三橋さんはいいます。
就寝前にスマートフォンを見ると、光の刺激でなかなか眠くならず、脳が興奮状態になりやすいため、眠れたとしても充分に休まりません。
スマートフォンを目覚まし代わりにしている人であればなおさら、就寝時はベッドから離れた場所にスマートフォンを置くのがおすすめなのだそう。
人間の体は、大きな筋肉に力が入ると目が覚めやすい構造になっています。なので意図的に「歩いて移動しなければ目覚ましを止められない状況」を作っておくと、起きやすくなるんですね 。寝起きに自信がない人にこそ試してみてほしい方法です。
寝床スマホ以外に、寝る前にやるとNGなことは下記の通り。
- 夜食…未消化だと内臓の温度が下がりにくく、睡眠が浅くなるので、食事は就寝3時間前までに取るのがベスト。遅くなったら量を少なめに。
- タバコ…覚醒作用が1時間ほど続く。寝る前に限らず、1日の総摂取量が多い人は睡眠が浅くなる。
- カフェイン…覚醒作用が4~7時間ほど続く。こちらも1日の総摂取量が多い人は睡眠が浅くなる。
- アルコール…寝つきは良くなったとしても、アルコールが分解される段階で交感神経が刺激されて覚醒する。
ただし、「ノンアルコールビールは睡眠の質を上げる」という報告もあるんですよ。アルコールの影響がない上に、原料のホップに含まれるGABAにリラックス作用が期待できます。よくビールを飲む方は、ビールをノンアルコールビールに置き換えてみてもいいかもしれません。
三橋さんいわく、睡眠前の水分補給のポイントは「お風呂上がりにしっかり水分補給をして、寝る直前は喉を潤す程度にしておく」ことです。
水分補給は大切なことですが、寝る直前だけは、夜中にトイレで目が覚めるのを防ぐため、数口程度にしておくのがおすすめです。適しているのは、白湯か常温の水。冷たいと胃が冷えて血行が悪くなるので、冷たすぎないものを飲みましょう。
太陽光を浴びる、就寝の1、2時間前にお風呂に入る、スマートフォンを離れた場所に置くなど、簡単に始められる工夫はたくさんあります。日中のパフォーマンスを保つためにも、過ごし方や寝具に気を配り、夜はしっかり眠りましょう。
イラスト:きじまももこ
編集:ノオト
吉玉サキ
よしだま・さき
北アルプスの山小屋で10年働いていたライター。著書に『山小屋ガールの癒されない日々』(平凡社)、『方向音痴って、なおるんですか?』(交通新聞社)がある。
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