ホクホクとねっとりで食べごろ温度が違う! 家で作る「焼きいも」の楽しみ方

秋の深まりとともに、無性に食べたくなる焼きいも。さつまいもの魅力やおいしい焼きいもを作るコツについて、さつまいもアンバサダー協会の代表理事であり、さつまいもオタクとして活動する橋本亜友樹さんに伺いました。

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橋本亜友樹

橋本亜友樹

はしもと・あゆき

1978年、兵庫県生まれ。神戸大学農学部、神戸大学大学院自然科学研究科にて植物育種学を専攻。グロービス経営大学院 経営研究科 経営学修了(MBA取得)。2015年にさつまいもカンパニー株式会社を設立。日本いも類研究会 事務局長補佐、一般社団法人さつまいもアンバサダー協会 代表理事などを務める。さつまいもコンサルタント、さつまいもファーマー、さつまいもアンバサダーとして幅広く活動するほか、スマート農業の普及や地域活性化にも携わっている。
(一社)さつまいもアンバサダー協会HP:https://sweetpotatoes.jp

風の温度や香りが変わり、「今年ももう秋なんだなぁ」と感じるようになるとふと、無性に食べたくなる秋の味覚、焼きいも。

近年はさまざまな種類のさつまいもを取り揃えた、焼きいも専門店が増えているほか、コンビニやスーパーでも焼きいもが販売され、お買い求めやすくなっていますが、家で作って食べるのもまた格別です。

もっと、おいしい焼きいもを作れるようになりたい。さつまいもの種類に詳しくなって、たくさんの選択肢があることを知っておきたい。アレンジレシピについても学んでみたい!

そんな期待を胸に、さつまいもを広めるためのさまざまな活動に従事する橋本亜友樹さんに話を伺いました。

まず、お伺いしたのがさつまいもの種類について。

「スーパーに置いてあるさつまいもの種類は、ごく限られたものかもしれませんが、いま現在、国内で育てられているさつまいもは、焼きいも以外の用途で使われているものも含めると、おおよそ40品種あります。品種改良によって、毎年新しい品種が2、3つは生まれている んですよ」と橋本さんは話します。

なかでも、近年多く流通しているのが「べにはるか」。 2010年に新品種として登録された、ねっとりとした濃厚な甘さが特徴のさつまいもです。加えて、最近見かける機会が増えているのが「シルクスイート」 。食感はなめらかで、ねっとり、しっとり。上品な甘さで、べにはるかよりも繊維質が少なめです。

▲「シルクスイート(左)」と「べにはるか(右)」。シルクスイートは、2018年に「HE306」の名前で品種登録された比較的新しい品種で、表面の赤紫色が強め

「以前までは、ホクホクとした食感の『ベニアズマ』が主流だったのですが、近年では、甘味が強いねっとり系のさつまいもがスーパーなどにも多く出回るようになりました。

あとは、栗のようなホクホクした食感が特徴の『なると金時』も見かける機会があるかもしれません。『安納いも』も、種子島などの限定的な地域で作られているさつまいもですが、名前を見る機会は多いですね。こちらは、ねっとりとして甘味が強い種類です」

▲コロンと丸みをおびた「安納いも」。皮は褐紅色で、内側はオレンジがかった濃い黄色

「ちなみに僕のおすすめは『ひめあやか』 です。少しこぶりないものが多く、内側は真っ黄色。香りや風味がしっかりあって、甘さとのバランスがよく、毎日食べていても食べ飽きない、食べ疲れないような味わい で、個人的にはもっと流行ってほしいさつまいもですね。流通している数があまり多くはないのですが、通信販売や、生産地の道の駅などでは手に入ると思います」

▲橋本さんイチオシの「ひめあやか」

「そのほか、2019年に品種登録された『すずほっくり』というさつまいもも、今後出てくるんじゃないか、メジャーになるのではないかと僕は期待しています

年々新しい品種が登場するさつまいも界では、国内シェアのトップクラスに躍り出るような、超人気者となるさつまいもは、ごくひと握り なのだそう。まるでスターの世界! トレンドにも動きがあるそうです。

「僕の体感的には、少し前は、ねっとり系が好きな人が8割、ホクホク系が好きな人が2割だったところから、現在はねっとり系6割、ホクホク系4割まで戻ってきたような感じもあるんです。いずれにしても、いろんなさつまいもを選べる自由があるといいですよね。そして、いろいろないもと触れ合うなかで、自分の『推しいも』が見つかると、楽しさが広がっていくのではないかと思います

焼きいもについて、「最もベーシックで一番おいしい、さつまいもの食べ方 ではないかと思っています。工夫を楽しめるけど、難しくはなく、特殊なものでもありません」と語る橋本さん。

焼きいもを作るときのおすすめは、シンプルに、オーブンやオーブントースターを使って長時間焼くこと。

「時間が許すなら、170〜180度のオーブンで90分から2時間くらい、じっくり焼くのがいいと思います。もし、それよりも時間を短縮したい場合には、200〜220度のオーブンで45分から1時間くらい焼くのがおすすめですね。アルミホイルを下に敷いて、その上にさつまいもをそのまま置くか、アルミホイルで全体を軽く巻いてからオーブンに入れて焼くのがいいと思います」

そのままの状態で焼くと、水分がより蒸発しやすくなって甘さが凝縮されやすくなるほか、焼きいも独特の焦げたおいしい香りも出やすいのだそう。また、実と皮の間にスキマができるので、皮をむいて食べたい人も、そのまま焼くのがおすすめとのこと。一方で、アルミホイルで巻いてから焼くと、ふっくらとした仕上がりに。

▲焼き時間は長めだが、スキマ時間をうまく使えば、あまり手をかけることなく作れる

焼きいもを家で焼くときのポイントは、太いいもを使わないこと。直径4〜5センチくらい、手首の細さほどのさつまいもを使うのがいいと思います。細いほうが確実に火が通りやすいんです

太いさつまいもを家で調理するなら、いくつかに切り分けて、炊飯器でふかしいもにするのもおすすめですよ。炊飯器の場合は、さつまいもの容量の3分の1くらいの水とさつまいもを入れて、スイッチをおすだけで作れます。タイマーをかけられるので、夜寝ている間にふかしておいて、朝ごはんとして食べる……という楽しみ方もできます」

ところで焼きいもの食べごろの温度とは、どのくらいなのでしょうか。

べにはるかなどのねっとり系のさつまいもは、少し冷めてからの方がおいしいです 」と橋本さん。

「冷蔵庫に入れて『冷やしいも』にしても、甘さが引き立ちますね。一方で、ベニアズマなどのホクホク系のさつまいもは、焼きたてがおすすめ 。焼きたてホカホカをすぐに食べられるのは、家で手作りすることの特権なので、そう考えるとベニアズマは、家の焼きいもに適した品種といえるかもしれません」

そのままで食べても十分おいしい焼きいもですが、アレンジ方法も盛りだくさん。

意外と合うのが、粒マスタードやスイートチリソース 。たくさんつけすぎると味が負けてしまうので、ちょっとだけつけて、アクセントにするのがおすすめです。乳製品との相性もいい ですね。バターやチーズはもちろん、サワークリームや水切りヨーグルトなどをのせて食べるのもおすすめ です。特に、焼きいもの甘さが強いと感じるときに添えると、さっぱりして味変になります」

「そのほかおすすめなのが、あまった焼きいもをドリンクに入れること。コーン(缶詰)と一緒にミキサーでつぶして、牛乳や生クリーム、コンソメを合わせてポタージュスープをつくったり、麹の甘酒に混ぜたり。牛乳と合わせて、さつまいもミルクを作ってもおいしいです」

▲ポタージュスープを作る際は、焼きいもの甘さにもよるが、つぶしたコーン200gと焼きいも100g、牛乳200ml、生クリーム30mlを混ぜ合わせ、コンソメキューブ1個と塩少々を加えると◎
▲甘酒に、ペースト状の焼きいもを加えると、甘さたっぷりのドリンクが誕生。真空断熱構造のマグカップを使えば、温かさがぐんと長持ちする

僕のイチオシは、生春巻の皮に、あんこ、生クリームと一緒に巻くこと ですね。ただ、見た目があんまりよくなくて……家族には好評ではなかったんですが(笑)。でもおいしいんですよ。

熊本県の郷土菓子に『いきなり団子』という、お餅にあんことさつまいもをくるんだものがあって、どことなくその味に似ているんです」

▲生春巻の皮の上にのせた焼きいもとあんこ、生クリーム。くるんだあとの姿は確かに、フォトジェニックとは言い難いのだが、生春巻のもちもち食感がいいアクセントになっていて、リピートしたくなる味わい

最後にふと、「長年触れ合っていますが、それでも、よくわからないんですよ、さつまいもって。甘くなる仕組みについて、いまだに解明されていない部分もあるんです」と話してくれた橋本さん。

さつまいもの甘さは、生の状態のときに含まれる『ショ糖』と、加熱されたときに作られる『麦芽糖』によって構成されており、ショ糖の量は、貯蔵方法で決まり、麦芽糖の量は、加熱方法で決まります

でも、貯蔵でショ糖が増えるのはなぜなのか、その仕組みはまだよくわかっていないんです。貯蔵中に低温にさらされたストレスで増えるという説もありますが、明確なことはわかっていません。

それだけでなく、β-アミラーゼという物質が、なぜさつまいもに含まれているのかも、よくわからない。

さつまいもを加熱することで、でんぷんの中に水分が入り込んで糊状になり、それをβ-アミラーゼが分解して、麦芽糖が作られる。それで甘さが増すんです。焼きいもが加熱で甘くなるのは、このβ-アミラーゼの働きによるものなんですね。つまり、我々人間にとっては願ってもないこと。ですが、さつまいも自身にとっては、特に必要ない成分だと思うんです(笑)」

「さつまいもは、何かがわかると、別のわからないことが出てくるんです。深く考えないと難しい。でも、それがおもしろいところだともいえます」とうれしそうに微笑む橋本さん。

橋本さんほど没入するのは難しいとしても、まずは、スーパーでさつまいもを買うときに、名前を気にしてみることや、食べごろの温度を意識することから、始めてみたいところ。この秋、これまでよりも、もう一歩深いところまで、さつまいもと触れ合ってみるのはいかがでしょう。

編集:ノオト
取材・執筆:高橋亜矢子

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