心地よく会話するには、どう話すのがいい? 専門家に聞く「自分らしい声の見つけ方」
日々を暮らすなかで、会話は欠かせないもの。もし、自分の声や話し方をもっと好きになれたら、話すことへの意識も変わるはず。そこで、声の専門家である山﨑広子さんにお話を伺いました。
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山﨑広子
やまざき・ひろこ
音楽・音声ジャーナリスト。一般社団法人「声・脳・教育研究所」代表。国立音楽大学を卒業後、複数の大学で音声生理学と心理学を学ぶ。3万例を超える音声の分析を行い、音響心理学、知覚認知心理学をベースに音や声と脳の関係を研究調査。NHKラジオ講師をつとめたほか、政治家やビジネスリーダーの声のコンサルティング、ヴォイス・トレーナーの指導や養成にも携わる。著書『8割の人は自分の声が嫌い』(角川新書)『声のサイエンス』(NHK出版新書)『人生を変える声の力』(NHK出版)などがある。
相手の声から受ける印象はとても大きいもの。ということは、自分の声も相手になんらかの印象を与えていることになります。なぜ人は、こんなにも「声」に心を揺さぶられるのでしょうか。
人は言葉の意味を脳の「理性領域」で判断します。だけど実はそれよりもわずかに早く、脳の深部にある「本能領域」で音を認識し、神経伝達物質が発生して感情が生まれるんです。
つまり話している内容を理解するより前に、相手の声に対して「安心する」「なんだか怖い」などの感情が湧き上がるんですね。無意識に受け取った声の印象は記憶として蓄積されます。
山﨑さんが行った調査によると、約1万人の日本の男女(10~70代)のうち、「自分の声が嫌い」と回答した人の割合はなんと84%。しかし中国ではほとんどの人が「自分の声が好き」と答えたそうです。なぜ日本人は、自分の声を嫌いだと感じるのでしょう?
自己肯定感に関するアンケートも併せて実施したところ、「自分の声が嫌い」という人は自己肯定感が低い傾向もみられました。この調査は声に興味を持っている方を対象に行ったので、声に悩んでいる人が多かったのかもしれませんが、多くの方が自分の声に不満を抱いているのはたしかです。
動画などで自分の声を聞くと、自分がいつも聞いている声と違うから「私ってこんな声なの!?」と違和感を抱くこともありますよね。
声には、耳から入る「気導音」と、体内から頭蓋骨などの骨を伝って内耳に届く「骨導音」があります。人に聞かせている声や録音した声は「気導音」、自分で話しているのを聞く声は「気導音」と「骨導音」が合わさったものです。骨導音は低めの周波数をよく拾うため、気導音だけである録音した声は自分のイメージよりも軽く、薄っぺらく聞こえます。
録音を聞くと、声だけじゃなくて話し方もイメージと違って驚くことがあります。自分ではもっとハキハキしゃべっているつもりだったのに、実際はそうじゃなかったり……。だからこそ、「録音した自分の声を聞くことは自分と向き合うこと」だと山﨑さんはいいます。
自分の声には、そのときの感情が全部ダダ漏れになっています。声を聞けば、「ここはすごく気弱になっているな」とか「ここは意地悪な気持ちになってるな」とわかる。自分でも気づかなかった感情に気づき、自分と向き合わざるを得なくなるんですよ。
山﨑さんは「本物の声(オーセンティック・ヴォイス)」という概念を提唱しています。オーセンティック・ヴォイスとは、他者を意識して作った声ではない、自分の脳が納得する「本当の自分の声」です。
オーセンティック・ヴォイスを見つけるためには、「とにかく自分の声に慣れることが大事」なんだそう。
自分の声を聞いていると、「もっとゆっくりしゃべったほうがいいな」などの改善点が見つかるはず。たくさん聞いてたくさん改善点を見つけることで、声と話し方がブラッシュアップされていきます。そのなかで理屈ではなく湧き上がるように「いいな」と感じる声が聞こえてくるはず。それが「自分の脳が納得する本当の自分の声」です。
オーセンティック・ヴォイスを見つける方法
- いろいろな場面(プレゼン、同僚と話すとき、家族と話すとき、友人と会っているときなど)を10分~20分間ほど、スマホなどで録音する
- 何度も聞いて自分の声に慣れる
- 声を出したときの自分の状態や思いを振り返り、言語化する
- たくさん録音した声の中から、本能的に「好き」「快い」と思う音を見つける
とはいえ、「どうしても自分の声を聞くのが苦手」という人も少なくないはず。そんな人が無理なく始めるには、いったいどうしたらいいのでしょうか?
最初は1分でも30秒でもいいので、とにかく聞いてみて。少しずつそれを繰り返して慣れるしかありません。自分の声を聞くことは、自分と向き合うこと。向き合わないと次のアクションがとれません。鏡を見なければお化粧ができないのと一緒なんです。
前述の「オーセンティック・ヴォイスを見つける方法」を実践した方は、おおよそ1~3か月ほどで効果が表れるそうです。オーセンティック・ヴォイスを見つけると、他者が聞いたときに「声が変わった」と感じるものなのでしょうか?
オーセンティック・ヴォイスは自分のなかにある声を見つけるものなので、別人のように声が変わることはありません。ただ、声の印象は変わります。相手からは漠然と「この人、前よりも話しやすいな」「なんか話していて安心するな」と思われるかもしれませんね。
山﨑さんによると、オーセンティック・ヴォイスを見つけることで、「しゃべるのが楽しくなった」「人前で緊張しなくなった」などの変化が見られるのだとか。
人には「ミラーリング」といって、自然と周りの人たちの声に同調していく傾向があります。特に共感力の高い人ほど、場面や相手に合わせて無意識のうちに声を作ってしまいます。相手によって声が変わるのは誰しもあることですが、あまりにも変わり幅が大きいと自分自身を偽ることになる。オーセンティック・ヴォイスを見つけて作り声を出すことがなくなれば、自分を偽るストレスから解放されます。
「初対面の人と話すときに緊張してしまって、うまく話せるか不安」という人も多いのでは。そういうとき、どうしたらスムーズに話せるようになるのでしょうか。
緊張したときは呼吸が浅くなり、息を深く吐けなくなります。呼吸って、息を吸うときに交換神経が優位になり、吐くときに副交感神経が優位になるんですね。だから深呼吸をするときは、息を吸うことよりも吐くことを意識してください。
緊張すると喉が詰まったようになったり、いつもより高い声が出てしまったりすることがあります。そんなときは、とっておきの対処法があるのだとか!
緊張しているときは「舌骨」という骨を挙上する筋肉に力が入り、喉頭がぐっと上がった状態になります。そうすると、高めの硬い声になってしまう。
そんなときはしゃべる前に喉頭を下げましょう。口を閉じた状態で「お」と言うと、喉頭が下がりますよ。それをやってからしゃべり出すと、落ち着いた声が出せると思います。
舌骨から肩甲骨までは筋肉で繋がっているため、舌骨に力が入ると肩も上がってきます。だから、肩を下げることも意識しましょう。
初対面の人と話すときは、できるだけ相手に親しみやすい印象を与えたいもの。どうしたら、親しみやすい声になるのでしょう?
ちょっと微笑みながらしゃべると、声が明るくなります。電話で表情が見えないときでも、口角を上げるだけで声の印象が変わりますよ。でも高くしようとはしないでくださいね。
逆に、初対面の人と話すときのNGポイントは「声を作ってしまうこと」だそう。
テレフォンアポインターの研修などでは「普段よりも高い声を出しましょう」と指導されるそうですが、無理に作った声は相手に緊張感を与えます。普段の自分らしい声で話すのが一番。自分らしい声がわからない人は、録音を何度も聞いてオーセンティック・ヴォイスを見つけましょう。
ビジネスシーンでも声を発する機会は多いもの。電話やオンライン会議など、デバイスを通して会話するときのコツはあるのでしょうか。
デバイスを通した声は、情報量を減らすためにスカスカの音になっています。そのため情報量を脳で補完しながら聞くので、対面での会話と比べて疲れやすい傾向が。電話やZoomでは、対面のときよりもゆっくり明瞭に話すといいでしょう。
歌手や声優など、声を使う職業の方は喉を大切にしているイメージがあります。声のためには、とにかく喉を保湿することが大切。「温かい飲みものを飲む」ことも、喉のケアになります。
声帯は常に「気道液」という液体で表面が潤っています。だけど寝ている間には水分補給がされず、気道液が減ってしまうため、朝起きたら声がガラガラになっていることも。
そこで、朝起きたらまず白湯を飲むのがおすすめです。私は常に、白湯か白湯にはちみつと生姜汁を加えたものを魔法びんに入れて持ち歩いています。
白湯がおすすめなんですね。逆に、おすすめしない飲みものはあるのでしょうか?
体内の水分を外に排出する作用があるので、カフェインが入った飲みものはおすすめしません。ノンカフェインの温かい飲み物で咽頭部分を潤してあげるのがおすすめです。
なぜ「冷たい飲みもの」ではなく「温かい飲みもの」がおすすめなのか、その理由は気道にあるのだとか。
飲みものは気道の後ろにある食道を通って胃に入っていくわけですが、気道にも温度変化は伝わるので、冷たい飲みものを飲むと気道が刺激されます。これは、声にとっていいことではありません。
たくさん話したり歌ったりすると、喉が痛くなるもの。そんなときもやっぱり、温かい飲みものが効果的なんだそう。
実は、声帯は痛みを感じないんです。じゃあどこが痛くなるかというと、中咽頭という部分。ここは空気がよく当たるために粘膜が乾燥し、痛みを感じやすいんですね。中咽頭が乾燥するとウイルスや細菌にも弱くなってしまうので、健康のためにもこまめに水分を摂りましょう。
人は無意識のうちに相手によって声を使い分けたり、作ったりしてしまうもの。けれど「オーセンティック・ヴォイス」を見つけることで、誰の前でも揺らがない個性を確立できるのでしょう。
自分の声や話し方に苦手意識がある方は、ぜひ録音を聞き、自分の声と向き合ってみてください。向き合ったぶん、自分を好きになれるはずですよ!
イラスト:辻本まみ
編集:ノオト
吉玉サキ
よしだま・さき
北アルプスの山小屋で10年働いていたライター。著書に『山小屋ガールの癒されない日々』(平凡社)、『方向音痴って、なおるんですか?』(交通新聞社)がある。
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