少ない油でできる! カリカリふっくら、東山広樹さんの「フライパン油淋鶏」
なんとなく、ハードルの高さを感じてしまう揚げ物料理。だけどたまには自分の手で、おいしい揚げ物を作ってみたい。欲をいえば、ごく少量の油といつもの調理道具で! 超料理マニアの料理人・東山広樹さんに、少しの工夫で味が変わるロジックが満載の「フライパン油淋鶏」のレシピを教わりました。
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東山広樹
ひがしやま・ひろき
超料理マニアな料理人。
中学時代に料理に目覚める。東京農業大学醸造科学科卒業後、一般企業、料理書専門出版社を経て、汁なし担々麺専門店「タンタンタイガー」を創業。現在は、会員制レストランや出張料理イベント、メーカーや飲食店へのレシピ提供など幅広く活動。著書に『スーパーの食材で究極の家庭料理』(大和書房)、『マニアック家中華』(ダイヤモンド社)がある。
X:@h_gashiyama
おいしい揚げ物は、自宅でも作れる!
料理をはじめて間もないころ、難易度が高い調理だと感じていたのが「揚げ物」。
「油がはねそうで怖い」「準備と片付けが大変そう」「めんどくさい」等々、揚げ物はどうしてもハードルが高く、いつも避けがちでした。
おそるおそる試してみて、多少であれば作れるようになった今でも、自分のやり方で合っているのかは不安なまま。ごく少量の油でおいしく作れるようになれたらうれしいけれど、それって両立可能なことなのでしょうか。
そんな悩みを、料理人の東山広樹さんに打ち明けたところ……
少量の油とフライパンでも、おいしい揚げ物はできますよ! 今回は、少ない油で作れる「油淋鶏(ユーリンチー)」の作り方をポイントと合わせて紹介しましょう。
という力強い返答が。油淋鶏といえば、揚げた鶏肉に、刻んだ長ネギ入りのタレをかけて食べる中華料理。難しそうな印象がありますが、揚げ物ビギナーでも作れるでしょうか……?
もちろんです! ポイントは「揚げる前に、お肉を乾かすこと」と「揚げる時間と、休ませる時間をきちんと計ること」 。それさえ守れば、極薄の衣がパリッとサクサクに、内側のお肉はしっとりジューシーな油淋鶏を、自宅で簡単に作ることができます。
ぜひとも詳しく教えてください!
油は1cmあればOK! フライパンひとつで簡単「油淋鶏」の作り方
<油淋鶏>
- 鶏もも肉…250~350g(1枚)
- 酒…大さじ1
- 味の素…2振り
- 醤油…小さじ1
- 片栗粉…大さじ2
片栗粉を使うと、小麦粉よりもダマになりにくく、パリッとした衣になるんです。さらにパリッと感を出したい人は、片栗粉大さじ1に米粉大さじ1を混ぜて使うのがおすすめです。
<タレ>
- グレープフルーツジュース(果汁100%)…大さじ1
- 醤油…大さじ2
- 酢…大さじ1
- 砂糖…小さじ1
- 生姜(みじん切り)…5g程度
- 長ネギ(みじん切り)…5g程度
このレシピのポイントはグレープフルーツを使うところ。生の果実を使ってもOKです。生だと香りがしっかりあって、すっきり爽やかな印象に。ジュースで作ると、甘みと濃縮感のある味わいに仕上がります。ちなみにグレープフルーツの色は白でもピンクでも、お好みで大丈夫です。
【1】耐熱容器に酒を入れ、味の素を加えて電子レンジ(600w)で40秒加熱する。
鶏肉に含まれる「イノシン酸」は、味の素の成分「グルタミン酸」と掛け合わせると、相乗効果でうまみが7〜8倍ほど増すんです。
【2】【1】に醤油を加えてよく混ぜ、鶏もも肉に揉み込む。
【3】鶏もも肉の皮を上にして網付きバットやザルに乗せる。ラップをかけず冷蔵庫に入れて3~24時間程度乾燥させる。
乾かすことで、鶏肉から余分な水分が出ます。そうすると、粉がつきすぎなくなるため、薄い衣に仕上がるんです。
冷蔵庫は、常に低温(2〜6℃)に保たれていて、肉を乾燥させるのに適しているんです。3時間乾かすとぷりっとジューシーな感じになり、それ以上乾かすと、どんどん余分な水分が落ちて、お肉の繊維がぎゅっと凝縮された感じになります 。今日は3時間乾かしたものを使っていきますね!
【4】待っている間にタレを作る。まずはグレープフルーツジュース・醤油・酢・砂糖を合わせ、砂糖が溶けたら、みじん切りにした生姜と長ネギをさっと混ぜる。
油淋鶏はタレをじゃぶじゃぶかけたい料理なんですけど、塩分の摂りすぎはよくないので、単に醤油を足せばいいというものでもなく。そんななか、グレープフルーツ果汁は、ちょうどいい塩梅でタレの液量を増やせるうえ、ほのかな苦味がいいアクセントになるんです 。
大学時代に編み出した方法なんですけど、当時憧れていた先輩に褒められて、すごく嬉しかったのを覚えています(笑)。
【5】【3】を冷蔵庫から取り出し、クッキングペーパーで軽くおさえたあと、片栗粉を薄くつけてはたく。
乾かした鶏肉は、通常の鶏肉よりも粉がつきにくいので、たくさんつけようとせず、薄くまぶすようにしてみてください!
【6】フライパンに油を1cmほどの厚さになるまで注ぐ。強めの中火で加熱し、フライパンを傾け、菜箸の先端を油に入れた時に勢いよく泡が出る温度にする。
温度でいうと約180度。ここまできたらあとは揚げるだけ! 揚げるときは、時間を計ることが重要なので、キッチンタイマーをそばに置いておきましょう。ない人はスマホのタイマーなどで代用するのでもOKです。
【7】皮目を下にして30秒揚げたら、ひっくり返して30秒、さらにひっくり返して皮目を下にして30秒、最後にもう一度ひっくり返して30秒揚げる。そのあと、バットに上げて4分間休ませる。
30秒ずつ揚げるのは、火が通りすぎないようにするためです。そして、ここでのポイントはなんといっても「休ませる時間を長く取ること」 。休ませている間に余熱でお肉の内側に火が通り、揚げ時間を減らせるから、お肉がぱさぱさにならないんです。
【8】【7】をもう1セット繰り返す。
お肉が全力で本領を発揮してくる! サクッとふわふわ油淋鶏
こんがりと黄金色に仕上がった油淋鶏を刻んで、特製のタレをじゃぶじゃぶとかけたら、さあ実食です。
東山さん、お味はいかがでしょうか?
やああ、今日もおいしくできましたね! う〜ん、うまい! これは100点満点です。間違いなく(笑)。あんまりにおいしくて、ひとりで全部食べ切っちゃう勢いなんですが、せっかくなのでみなさんも食べてみてください!
……ということで、編集部もさっそく油淋鶏をいただくことに。ほんの1mm程度しかなさそうな極薄の衣に驚きます。一口頬張ってみると、サクッとした軽やかさとともに、鶏もも肉のふわっとした感触が口いっぱいに広がって、食感のコントラストがものすごい! ほろ苦さと甘みのあるタレが惜しみなくかかっていて、でも全然しょっぱくないのもうれしいです。
「揚げる」という調理法は、お肉のぷりっとした食感を最も活かせる方法ともいえるんです。揚げ物にハードルの高さを感じている人もいるかもしれませんが、ぜひ一度チャレンジしてみてほしいですね。
なお使い終わった揚げ油は、専用の凝固剤で固めて捨てるほか、オイルポットに入れておけば、数回再利用することもできます。
月に3回くらい揚げ物をするのであれば、オイルポットを持っておくのもおすすめですよ!
近所のお肉屋さんやレストランで出てくるような揚げ物は、どうあがいても自分には作れない。ならばいっそ作るのは諦めて、出来合いを楽しむだけにしておこうか。そう考えたこともありましたが、東山さんの油淋鶏を体験してみて、「自宅だからこそ作れる揚げ物」があるのだと感じました。
揚げ物をマスターできれば、おもてなし料理の幅も、自分で自分を楽しませる手腕も増えて、家で過ごす時間がさらに充実するはず。ぜひ、少量の油といつものフライパンで、揚げ物をしてみませんか。
撮影:藤原葉子
編集:ノオト
高橋 亜矢子
たかはし・あやこ
コンテンツメーカー・ノオトに勤めるライター/編集者。知らない土地やスーパーをうろうろすることと交通インフラが好き。よく使う調味料はお酢。
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